「リスクは高いと思います」という発言が、なぜか「賢そう」に見えたり「仕事をしている」ように見えてしまう現象。これには明確な心理学的・組織的なメカニズム(理由)が存在します。
ご指摘の通り、商売にリスクは付き物であり、それをただ指摘するのは本来「空虚な意見」です。しかし、会議の場でそれがまかり通ってしまう理由は以下の4点に集約されます。
1. 「悲観論は知的に見え、楽観論は能天気に聞こえる」法則
人間には**「批判的な意見の方が、肯定的な意見よりも分析が深く、賢そうに見える」**という心理バイアスがあります。
- 賛成する人 = 浅はか、リスクが見えていない
- 批判する人 = 深慮遠謀、見えない危険を察知している
という錯覚が無意識に働くため、とりあえず批判側に回るだけで「思慮深いポジション」を無料で手に入れることができます。
2. 「予言者」としての安全地帯(ノーリスク・ハイリターン)
「リスクが高い」と言っておくことは、発言者本人にとって最もリスクが低い戦略です。
- プロジェクトが失敗した場合:「ほら言った通りだ。私の警告を無視したからだ」と勝者になれます。
- プロジェクトが成功した場合:「私の警告のおかげで慎重に進められ、リスクを回避できた」と主張するか、あるいは単に忘れ去られます(成功の喜びに紛れて)。
つまり、どちらに転んでも自分の立場が傷つかない最強の保険なのです。
3. 「損失回避」の本能を刺激する
人間は「100万円儲ける喜び」よりも「100万円損する恐怖」の方を2倍以上強く感じる(プロスペクト理論)と言われています。
「リスク」という言葉はこの恐怖本能を直接刺激するため、リーダーや決定権者はその意見を無視しづらくなります。結果として、ただ不安を煽っただけの人が「会社資産の守護者」のように錯覚されてしまいます。
4. 対案を出さずに済む「思考の節約」
「どうすれば成功するか(How)」を考えるには、市場調査、技術的検証、コスト計算など膨大なエネルギーと知識が必要です。
一方、「なぜ失敗するか(Why not)」を挙げるのは簡単です。「予算が足りない」「競合が強い」「時期尚早」など、誰でも思いつく一般論を並べるだけで済みます。思考コストをかけずに発言権を確保できるため、能力に自信がない人ほどこのカードを使いたがります。
この手合いへの対処法
もし次回、この「とりあえずリスク高いと言うだけの人」が現れた場合、以下の切り返しが有効かもしれません。
リスクの具体化を迫る:
「おっしゃる通りリスクはつきものですが、具体的に『発生確率』と『発生した場合の損害額』はどの程度と見積もっていますか?」
「何もしないリスク」と天秤にかける:
「では、このプロジェクトを実行しなかった場合に我々が失う『機会損失(やらないリスク)』と比較すると、どちらが大きいでしょうか?」
こう聞くと、単に賢く見せたいだけの人は具体的な数字を持っていないため、口ごもることが多いです。
「リスク」という言葉を思考停止の隠れ蓑にさせないことが重要です。
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